積日;昔日

無差別に書きます

「punk」豊永亮Akira Toyonaga(gt)×チャールズ・ヘイワードCharles Hayward(ds)

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ディスヒートのドラマーのチャールズヘイワードと日本のギタリスト豊永亮のロンドンでのスタジオセッションを収録。豊永氏のギター演奏のその圧倒的な"凄み"を余すことなく世に知らしめるであろう”待望"の音源集。なんせ氏が敬愛するヘイワードとの共演盤である、これ以上にない形での作品化とリリースではないだろうか。元音源についていえばこの二人のセッションである悪ろうはずはないが、篭った音質で可聴できる範囲が狭く、一聴した段階ではちょっと地味かなという印象を持った。伝え聞くヘイワードの強靭なドラミング、またLIVEで体感した豊永ギターの衝撃を録音で伝える事は難しいかもしれないと思った。音質面での難をクリアすることは作品化にあたりまず必須だったはず。リマスター作業を経て完成した本作、その音質は元のものと比べ大幅に向上し、響きが埋れず細やかな演奏のニアンスが聴きとれる、そして迫力のある音像からは各楽器の震えが直に伝わってくる!両者の力量を十分に感じられるものに仕上がっていた。ヘイワードのドラミングは勿論の事、自分は豊永ギターの強烈なトーンにやはり耳がいきまたも唖然と?させられてしまう。楽器から発せられる一音、ワンフレーズのその怯むことの無い存在感の強さ。LIVEで観る豊永さんの姿がここに在り。実際に氏の演奏を目の当たりにした時の事をおぼろげながら思い出す。演奏、掻き鳴らされるギターの弦の音は、弾かれた瞬間管楽器のようにうねりを増し広がり、また独特のタイム感を持ってリズムは刻まれる。途絶えることなくフレーズは生まれては消える、その一瞬一瞬が起点となりさらに前へと展開、次から次へ繰り出される音を前に空間が捩れ差し迫ってくるような感覚を覚える。引力とか磁場とかそういう言葉が浮かぶ。どんな音が次にくるのか、身じろぎもせず息を呑み聴き逃すまいといつの間にか前のめりになっている自分がいる。緊迫感がある、だが発せられる音に目を瞑り耳を傾けているうちにそれは観客やセッション相手を制するような類のものではないという事が分かってくる。演奏から受ける印象はそのつど変わり例えば軽やかさ、時にユーモアを感じさせる場面すらあった。氏によって鳴らされるギターのその断片断片からは節々におそらく氏が聴いてきたであろう音楽からの影響を見て取ることができる。たとえばキングクリムゾン、キャプテンビーフハートほかetc...重要なのはただ奏法やトーン、フレ-ジングなどただ表面をなぞっただけの物ではなく氏の中で長い時を経て混合した末、表に現れてきたているものであるという事。精神性の継承といったらよいのか、音を発する態度受けとる姿勢、もっと言えば人となりににも反映されているような気がする。彼は熱烈なディスヒートファンである! 再び本作について。”PUNK”聴き進め改めて感じた事の一つとして、"音響”としてのギターの響きの美しさが挙げられる。ヘイワードに感化され、あるいは抗うように次から次に新たなフレーズが生み出されていく。それは音を通じた高度なやりとりと言えよう。息付く暇無くたいへんにスリリングな演奏だ。その中で、豊永のギタープレイはいつも以上に相当に”節制”されている。ボリュームペダルを用いた奏法によって搾り出された弦楽器的響きにいままでにない美しさを感じた。音盤として聴くことでLIVEとは違った発見がある。書き忘れたが、セッションは幾つかのトラックに分けての収録がされている。全10曲46分。曲順についてはリリース元である時弦プロダクション宮本隆氏により考案されたものだと伝え聞く。何度も再生できることはCDならではのメリットで、少々単調に感じられた演奏箇所も繰り返し聞くたび味わい深いものになってきた。個人的にはひたすらに執拗な(としか表すことばがない)6トラック目は必聴。 どちらかと言えばこれは豊永視点で書いているが、当然ヘイワードのドラムもすさまじい。場面場面を書き出せばキリがないが、我々が知りうるよりも遥かに濃密な対話がセッションの中、両者の間でなされた事は想像に難くない。これはその貴重な記録である。聴きごたえのある1枚。いち豊永ファン(そしてthis heatファン)としてこの作品のリリースはとても嬉しい出来事だった。広く聴かれる作品なればいいなとおもう。ロックファンであればぜひ聴いてみるべき!